ベネフィット・ファインディング

ベネフィット・ファインディング(Benefit finding)とは、苦しみを経験することで、それまでは何でもないと思っていた出来事に意味と価値を見出す過程をいいます。 近年、医学の世界で注目されている概念であり、慢性疾患や不治の病に侵され、「病とともに生きる」ことを強いられた人々の中に、絶望感が生じながらも生きる力を失うのではなく逆に強め、他者から見れば不幸と思われる状況にさえも、価値を見出す人がいることで生まれた概念です。

ベネフィット・ファインディングを経験した人は、困難な状況の中に一筋の光を見出すことができ、生きることへの意欲が高まり、人生を豊かに感じることができます。

ベネフィット・ファインディングを経験するには、いくつかのプロセスを経なくてはなりません。

まず、自分が遭遇している困難な状況を『理解する』必要があります。 人間はいかなる場合でも、自分の置かれている状況が把握(=理解)できないことには、それを上手く乗り越えることができません。 把握できないままだと、「なんで神様は自分にだけこんな仕打ちをするんだ」などと思い、その困難と向き合うことを避けるようになります。

『理解』の次は、自分の遭遇している困難を『否定しない』プロセスを迎えます。

「否定しない」とは、「こんな状況にあるけど、まっいいか」と思える感覚であり、肯定したり、ポジティブに受け止める感覚とは若干異なります。 その困難な状況を都合のいいように解釈するのではなく、『ありのまま』を受け入れるのです。 その状況がいいとか悪いとか、何らかの評価をするのではなく、「そのままの状態を見る」「現実をあるがままに見る」ことです。

この段階で、『まっ、いいか』とありのままを受け入れることに失敗すると、次第に逃避行動が始まるとされています。 また、『否定しない』プロセスに至るには、自分の気持ちを受け入れてくれる他者の存在が必要不可欠であることも分かっています。

もし、泣いていることを周りから否定されたり、「もっと強くなれ」と言われたり、自分の気持ちを聞いてもらえなかったりすると、「こんな自分を産んだ親が悪い」となどと、誰かのせいにしたり、自分を正当化するための理由を見つけようとします。 そして、自分の困難を忘れるような行動に無理やり走ったり、自分はダメな人間だなどとコンプレックスを感じ、自尊心が著しく低下し、生きる力は次第に弱められていきます。

自分の「ありのまま」を直視するのは非常に難しいのですが、ここで客観的に自分と自分の状況を見つめない限り、ベネフィット・ファインディングは経験できません。

一方、自分の状況を『理解』し、『否定しない』でありのままを受け入れることができると、他者と関係を深め、自分にしかできないであろうと思えることに力を注ぐようになります。 この積み重ねが、『価値』を見出すことにつながるのです。

今の世の中は、経済的状況も悪ければ、会社もいい状態にあるとは言えません。 頑張ったからといって給料が昔ほど上がるわけでもありませんし、経費だってギリギリの中で仕事をしなければならないことは山ほどあります。 景気がいい時であれば、面白い仕事も次々できましたし、面白いようにモノも売れました、給料だってボーナスだって面白いように上がったこともありました。

そんな過去を知っているだけに、

「こんなご時世だから、会社や仕事に期待したって仕方がない」
「これだけ自分は頑張っているのに、会社はちっとも評価してくれない」
「どんなにやったって、報われない世の中なんだ」

などと、誰だって、自分が置かれている困難な状況をすべて『不況』や『会社』のせいにしたくなるでしょう。 でも、そう考えるのをやめてもいい段階になっているんじゃないか、と思うのです。 普通なら見逃しそうな出来事の中に価値を見出す経験は、困難な状況に陥らない限り経験できません。 しんどい状況だからこそ、見出すことができる価値があります。

太陽の光がさんさんと降り注いでいる時には、壁の小さな穴から入り込むかすかな光などに気づくことはありません。 今のように真っ暗なご時世だからこそ、そんな小さな一筋の光に気づくことができるんじゃないでしょうか。

ただ、真っ暗闇を進むのは誰だって怖いから、なんとかそこから脱出しようとあれこれと試します。「この暗闇から早く出してくれよ~」と、ドアを叩いて不平不満を外に言うことだってあるでしょう。

でも、たとえその場を太陽が一瞬照らしてくれたとしても、自分が暗闇という空間にいる事実は何も変わりはしません。 だったら、暗いうちに、「この暗闇の中に、どこか明るい場所があるんじゃないか」と暗闇の中を怖いかもしれないけれど歩き回り、必死に目を凝らせば、かすかな光に気づくことができる、と思うのです。

どんな困難であれ、自分を客観的に見つめ、それを受け入れるのは難しいのですが、正面から向き合う勇気をもち、それを否定しないで受け入れられれば、自分が変わります。

こんなご時世で仕事に期待してもムダだからと、趣味や家庭生活に価値を見出すことは悪くありませんし、それはそれとして大切なことです。 しかし、毎日、会社には行かなきゃいけないわけで、毎日、会社で仲間と顔を合わさなきゃいけないわけです。 そんな避けることのできない『仕事』という日常の中に、小さな幸せ(=価値)を見出すことができれば、閉塞感から抜け出せるのではないでしょうか。

ポジティブな感情は、人間の知性を磨き、身体能力を培い、危機に面した時には勇気を奮い起こさせる。ポジティブな気分でいる時は、いつも以上に他者をいとおしみ、友情や愛情やお互いの絆もさらに強固になる。そして、新しい考えや教えを受け入れる柔軟性が持てる」。これは、心理学者フレデリクソンの言葉です。

そう言えば、小さな企業に勤めている私の友人は、いまだに朝と午後、お茶を男性社員に入れるという“面倒くさい暗黙のルール”を、『小さな幸せ』に変えていました。 彼女は、お茶を入れる封建的な社風がイヤでイヤで仕方なかったのですが、どうやったって避けることができない自分に課せられた仕事だと『お茶いれ』を受け入れ、「だったらいっそのことお茶入れのプロになってやる」と、日本茶について勉強しました。 そうしたら、「これ、美味しいね~」などと褒めてくれる社員が出てきて、お茶を通して同僚や上司とコミュニケーションをとる貴重な時間になったといいます。

「価値を見出す」とは、今ある状況のなかに見つけるだけでなく、時には自分のちょっとした努力で価値あるものに変えることも必要なのかもしれません。

受難は天に昇るための階段」と考えれば、今ほど意味ある時代はないのかもしれません。

(この記事は作家の河合 薫さんのお話から抜粋したものです。)


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