バクテリアルトランスロケーションの予防は栄養管理で

免疫機能を高めるには、GFO(グルタミン、水溶性ファイバー、オリゴ糖)を出来るだけ早く、しかも腸を使って投与することが大事です。GFOが小腸の粘膜を活性化して、免疫機能の低下を防ぐのです。

栄養障害も院内感染も、圧倒的にICUから始まります。あるいは、脳外科をはじめ一般に、絶食期間が長い診療科からも院内感染は発症しやすいです。1996年当時は中心静脈栄養による高カロリー輸液のみで管理されることが多く、経腸栄養は行われていませんでした。

また充分なエネルギーの投与もなされておらず、栄養が足りない上に腸も使わない為、患者の免疫機能は最低レベルにまで低下していました。特にICUは様々な種類の抗生物質を大量に使うために、黄色ブドウ球菌が変異してMRSAが発生しやすい環境でもありました。

これ改善するには、抗生物質の乱用を避けるとともに、ICUにいる急性期から腸をきちんと働かせて免疫機能が落ちないようにし、必要な栄養を充分に投与することが重要になります。

ICUで栄養管理がきちんとなされないと、どんなことが起こるかを、もう少し具体的に見てみましょう。

たとえば、急性膵炎という病気があります。高脂血症やアルコールの多飲、胆管結石などが原因で起こる、膵臓の急性炎症です。軽症の場合は膵臓だけで炎症が治まりますが、重篤化すると大量の炎症性サイトカインが放出されて、全身に急性炎症反応が起こります。要するに、身体の中が火傷(やけど)したような状態になってしまうのです。さらに、膵臓の一部が壊死(えし)してしまうこともあります。

膵臓の細胞が溶けたようになるのですが、この壊死した部分が細菌に感染して、お腹の中が膿(うみ)で一杯になってしまうことが、以前は往々にしてありました。「感染性壊死性膵炎」といいますが、こうなると死亡率が高く、非常に危険な状態です。

ところが、なぜ膵臓が細菌に感染するかが謎なのです。膵臓は背中側にある臓器で、径2ミリほどの膵管や胆管が十二指腸と繋がっているだけで、あとはどの内臓とも繋がっていません。消化管のように外界に開かれているわけでもありません。それなのに、細菌に感染します。しかも、その膿の中の細菌は、大腸の中にある排泄物の細菌と一致します。

腸の中の細菌が粘膜を超えて腸管の血管やリンパ管に入り込み、血液やリンパ液を介して膵臓に感染したと考えるしかないわけです。それを「バクテリアルトランスロケーション」といいます。

1996年当時は、膵炎の急性期は絶飲絶食が決まりでした。水を飲んだり物を食べたりすると、膵臓が間接的に刺激されて酸素を分泌してしまい、膵炎が悪化するとされていたからです。それで、ICUにいる間は経腸栄養は全く行われず、静脈から輸液を入れるだけ。1ヶ月以上、点滴だけで過ごしている患者もいました。

そこで中等度以上の急性膵炎患者に、早期から経腸栄養ルートを通してGFO(グルタミン、水溶性ファイバー、オリゴ糖)を投与しました。もちろん、腸を活性化させてバクテリアルトランスロケーションを防ぐためです。その甲斐あって、20例ほどの人たちは、バクテリアルトランスロケーションを起こさずに済み、感染症もなくICUから早期に一般病棟に移ることができました。

バクテリアルトランスロケーションは、腸閉塞(ちょうへいそく)でも起こります。腸閉塞の場合、腸が詰まって動かない間に、腸の中で細菌が爆発的に増殖してしまったり、腸の粘膜がものすごく薄くなってしまったりすることがあるのです。そうなると、バクテリアルトランスロケーションが起こりやすくなります。

また、腸捻転(ちょうねんてん)が閉塞の原因である場合には、腸のねじれによって血液が流れなくなってしまい、虚血状態になります。すると、腸が腐ってしまったり、ねじれを戻して血流が再開したときに、過激な過酸化反応が起こり、腸の粘膜が一気に障害されて、バクテリアルトランスロケーションが起こることがあります。

かつて腸閉塞の位置を確かめるために、腸管内に造影剤を入れて撮影したら、腎臓と尿管が写っていたことがありました。このような画像は見たことがありません。消化管に造影剤を入れた場合、普通ならば造影剤が血管に入ることはないので、腎臓や尿管が摘出されることはありません。腎臓が写ったということは、造影剤が腸壁から吸収されて血管に入ったということです。バクテリアルトランスロケーションが起こっていて、細菌と一緒に造影剤も吸収されて、血液とともに腎臓まで流れていったわけです。

腸閉塞の場合は腸が詰まっていますから、GFOを入れても、また掻き出さなければなりません。しかし、たとえ後で掻き出すことになってもGFOを入れると絨毛(じゅうもう)上皮は委縮しません。バクテリアルトランスロケーションが起こる危険性を減らすことができるのです。

すなわち、たとえ消化管の病気であっても、しかもそれが腸閉塞であっても、GFOを投与することで感染症の発症を減らすことができますし、それによって院内感染を予防することにもなります。

GFO療法では、1回につき市販のGFO 1袋(グルタミン 3g、水溶性ファイバー 5g、オリゴ糖 2.5g)を35~40mLの水に溶かして、1日3回経腸的に投与します。口から飲める人は口から、そうでない人は経鼻胃管や胃瘻(いろう)などから入れるのです。この程度の量ならば、たとえ消化管の手術をした後でも差し支えありませんから、腸を使って投与することが可能です。もしも、グルタミンだけで腸の絨毛上皮細胞が委縮するのを防ごうとしたら、1日に約30g投与しなければなりませんが、この3つの栄養素を組み合わせることで相乗的な効果が得られるため、3分の1程度の量で済むのです。

もちろん、これだけではエネルギーが足りませんから、エネルギーは別に投与する必要があります。経腸的には栄養を入れるのが無理であれば、栄養は静脈を使います。

病院内で発生するMRSA症例をゼロにすることは、ガン終末期のような弱い患者を守ることにも繋がります。院内に感染症が蔓延していると、終末期のガン患者など免疫機能の低下した人は、容易に感染症にかかり、それが元で亡くなってしまいかねません。けれどもそれに応じて感染症にかからなければ、そして栄養管理をきちんとすれば、終末期の患者といえども食べられる期間が長くなって、生きられる期間も延長することが分かりました。

ただ、院内の発生がゼロになっても、転院してくる人がMRSAを発症している場合があります。つまり感染症の持ち込みがあるのですが、入院患者の栄養状態が良く、免疫機能がきちんと働いていれば、怖れることはありません。新たに入ってきた人に集中的に関わって、栄養管理を速やかに行えば大丈夫。ほとんど抗生物質を使わずに感染症を治すことが可能ですし、抗生物質が必要な場合でも、長期間の投与をせずに済みます。感染症が院内に広がることはないのです。

narumi500_333


雑学・豆知識 ブログランキングへ

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ページ上部へ戻る