栄養管理することで呼吸障害と栄養障害の悪循環から抜け出せる

呼吸障害と栄養障害の悪循環から抜け出すには栄養管理が欠かせません。まず、呼吸障害があると呼吸筋を激しく使い、大量のエネルギーを消費します。そのため、呼吸障害がある人が必要とするエネルギーは、基礎代謝量の1.3~1.7倍といわれています。ただし、基礎代謝量の2倍を超えると、代謝に伴って生じる二酸化炭素の量が増えすぎて、かえって呼吸が苦しくなってしまいます。

二酸化炭素の発生量は、栄養素によっても異なります。糖質よりも脂質のほうが、同じエネルギーを得る際に出る二酸化炭素が少ないため、呼吸障害のある人には脂質を多めに投与する必要があります。脂質の中では、ω(オメガ)3系脂肪酸には炎症を引き起こす生理活性物質を減らす作用や免疫をアップする力があるため、これを投与します。ω3系脂肪酸とは、魚油に多く含まれるEPAやDHAなどです。

そもそも「呼吸障害のある人には脂質を多めに投与したほうがいい」と気づいたのは1984年頃、肝硬変でCOPD(慢性閉塞性肺疾患=従来、慢性気管支炎、肺気腫と呼ばれていた疾患)のある人の体験談を聞いたときでした。

その人は50代半ばの男性で、肝臓を大きく切り取る手術を受けたあと、人工呼吸器の管理下にありました。必要エネルギーは計算して投与されていましたが、中心静脈栄養で腸は使われていません。また、当時は肝硬変の人に脂肪を投与すると免疫機能が落ちるといわれていて、脂肪は手術前からずっと投与されず、糖とアミノ酸だけでした。人工呼吸器で呼吸管理をされているにもかかわらず、血中の二酸化炭素が徐々に増えていました。COPDが悪化しているためで、これではいつまで経っても人工呼吸器から離脱できません。

そこで、全体のエネルギーを減らさずに、糖を一部脂肪に置き換えて投与することになりました。糖の過剰投与が原因で、血中二酸化炭素が増えていると考えられたからです。

ただし、その人は中心静脈栄養です。静脈から栄養を入れる場合、脂肪を一気に大量に入れることはできません。静脈塞栓(じょうみゃくそくせん)や肝機能障害などの副作用が出ることがあるのです。そのため脂肪製剤をごく少量ず
つ、何時間もかけて投与していきました。

するとその人は、スッと呼吸が楽になって回復し始めたのです。実は、当時はまだ日本語に訳されていませんでしたが、英文の教科書には「脂肪を投与すると二酸化炭素が減って楽になる」と書かれてあったのです。

呼吸が楽になった男性は、じきに人工呼吸器から離脱できました。人工呼吸器が外れたので、すぐに中心静脈栄養をやめて、口から食べてもらうことにしました。もちろんその効果は覿面(てきめん)で、その人は見事に元気になって、間もなく退院することができました。投与するエネルギーが同じでも、どの栄養素を使うかで、身体に与える影響は全く異なるのです。

呼吸障害の治療には、BCAA(必須アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシン)も重要です。呼吸筋をはじめとする筋肉の崩壊を防ぎ、タンパク質の合成を促進する作用があるからです。更に、コエンザイムQ10も欠かせません。コエンザイムQ10は、生体のエネルギー通貨であるATPを作る際に必要で、これがないとATPが作れずにエネルギー不足に陥ってしまうのです。低酸素状態で筋力を高めたり、筋肉の疲労を抑制したりする作用もあります。

呼吸状態の悪い人には、人工呼吸器を着けることがありますが、この場合にも栄養は重要です。人工呼吸器の管理下にあるということは、それだけ重症だということですから、エネルギー消費量も多くなりますし、疾患に応じて様々な栄養素も必要です。また、人工的に呼吸をさせられるので、リハビリテーションの立場からは呼吸筋が衰えるという副作用もあります。その状態で栄養障害があると、一気に筋力が衰えてしまい、離脱できなくなります。

したがって、タンパク質の崩壊を防ぎ、合成を促進するために、BCAAやグルタミンを多めに、腸を使って投与することが大事です。人工呼吸器が必要な急性期だから経静脈栄養でいい、というわけではないのです。人工呼吸器を早く外すにはどうすればいいのか、外したらそのあとはどうするのかと、常に先を見ながら栄養管理することが重要です。

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