ガン細胞は酸素があっても嫌気性解糖をする

ガンになっても身体を弱らせないためには、どのような栄養を摂れば良いのでしょう。

医療現場で多い栄養障害は、タンパク質・エネルギー栄養障害(protein-energy malnutrition:PEM)です。入院患者の30~50%に中等度以上の栄養障害がありますが、その多くがPEMなのです。つまり、身体を作る材料であるタンパク質やアミノ酸と、エネルギーの元になる糖質や脂質が足りないのです。タンパク質、糖質、脂質は三大栄養素といわれるとおり、これがないと人は生きていくことができません。その基本中の基本の栄養素をまず補う必要があるわけです。とはいえ、糖はガン細胞の大好物な栄養素です。摂っても良いのでしょうか?

糖は人が生きていくうえで非常に重要なエネルギー源ですから摂らないわけにはいきません。ただし、糖を摂っても正常細胞がそれをうまく使えないのでは意味がありません。そこで、糖が効率的に「好気性解糖」に回るように、好気性解糖を促進する栄養素も同時に摂ることが大事です。なぜならば、正常な細胞の中では通常「好気性解糖」が行われますが、ガン細胞の中では「嫌気性解糖」が行われるからです。

スポーツに詳しい方なら、細胞がエネルギーを生み出す方法には、酸素を使って糖を代謝する好気性解糖と、酸素を使わずに代謝する嫌気性解糖があることを、ご存じだと思います。ジョギングのような有酸素運動では、酸素を供給しながら運動するため、体内に酸素が充分にあり、細胞は酸素を使って糖を代謝し、エネルギーを作り出します。それに対して、100メートル走のような激しい運動では、
酸素の供給が間に合わないため、細胞は酸素を使わない嫌気性解糖によって糖を代謝し、エネルギーを作り出します。ところが、ガン細胞は酸素が充分にある状態でも、嫌気性解糖をするのです。

ここで簡単に、好気性解糖と嫌気性解糖の仕組みを見ておきましょう。

糖は米や麦などの穀類や芋類、豆類、果物など様々な食品に含まれています。食事をすると、糖は体内で消化酵素によって代謝されてブドウ糖になります。ブドウ糖は血流に乗って全身を巡り、膵臓から分泌されたインスリンの働きで細胞内に取り込まれます。そして細胞の中で更に代謝されてピルビン酸になります。

ブドウ糖が代謝されてピルビン酸になる過程を「解糖系」と呼びますが、これは細胞の細胞質で行われます。このとき酸素が充分にないと、細胞質内で更に解糖が進み、ピルビン酸が乳酸に変わります。これが嫌気性解糖です。

一方、酸素が充分にある状態では、ピルビン酸はミトコンドリア内に取り込まれます。ミトコンドリアは細胞の中にある小器官で、エネルギーを作り出し、細胞に供給する役目を担っています。

ミトコンドリア内に取り込まれたピルビン酸は、ピルビン酸脱水素酵素によって代謝され、アセチルCoAとなって、TCAサイクル(クエン酸回路)に入ります。ところが、このピルビン酸脱水素酵素が働くにはいくつかの補酵素が必要で、その1つがビタミンB₁です。そのためビタミンB₁が不足すると、ピルビン酸脱水素酵素が働かず、ピルビン酸がアセチルCoAへと変わることができずに、TCAサイクルに入れません。するとピルビン酸は解糖系に戻り、嫌気性解糖されて乳酸に変わってしまうのです。

ビタミンB₁があって酵素がきちんと働き、ピルビン酸がアセチルCoAになってTCAサイクルに入った場合は、電子伝達系という過程を経て、ATP(アデノシン三リン酸)が作られます。ATPは“生体のエネルギー通貨”と呼ばれる物質で、これがミトコンドリアから細胞質に出て、エネルギー源として使われます。ATPが加水分解されてアデノシン二リン酸となり、さらにアデノシン一リン酸となる過程でエネルギーを放出し、最終的には水と二酸化炭素になるのです。

ATPはブドウ糖がピルビン酸になる解糖系でも作られます。このとき作られるのはブドウ糖1分子からATP2分子です。好気性解糖の場合は更にTCAサイクルで2分子、電子伝達系で34分子のATPが作られます。つまり嫌気性解糖で作られるエネルギー通貨は解糖系で作られた2分子のATPが全てであるのに対して、好気性解糖では解糖系の2分子にTCAサイクルの2分子と電子伝達系の34分子を合わせて、計38分子のATPを作れるということです。嫌気性解糖は、仕組みが単純な分だけ反応は速いのですが、ブドウ糖からATPへの代謝効率は非常に悪いのです。

それなのに何故、酸素が充分にある環境でもガン細胞は嫌気性解糖を行なうのでしょうか?好気性解糖をしたほうが最も効率よくエネルギーを作れて、より速く増殖できるのではないでしょうか?

実は、その理由はよく分かっていません。いくつかの説が挙げられていて1つの説では「腫瘍が大きくなるにつれて内部が低酸素状態になるから、その状態でも生きていけるように嫌気性解糖をする」としています。また「ガン細胞は好気性解糖を行わないことで、アポトーシスしないようにしている」という説もあります。

「アポトーシス」とは、あらかじめプログラムされた細胞死です。たとえば、何らかの理由によって遺伝子を傷つくと、細胞はそれを修復しようとします。けれども修復できないときは、あらかじめ遺伝子に組み込まれたプログラムを起動させ、細胞をアポトーシスさせて自ら細胞を枯らすのです。

このアポトーシスには、ミトコンドリア内でATPを作る際に使われる物質が重要な役割を果たしています。そこで、その物質が活性化してアポトーシスが起こり、自分が死んでしまうのを避けるために、ガン細胞は好気性解糖を行わない、というのです。であれば、強制的にガン細胞に好気性解糖をさせることができれば、ガン細胞が死ぬかもしれないわけです。この説の真偽はまだ分かりませんが、好気性解糖を亢進させる栄養を補給すれば、少なくとも正常細胞では効率よくエネルギーを作れ、ガン細胞に糖をある程度奪われても、身体が弱ることを避けられます。

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