栄養を入れるときは出来るだけ腸を使う方法が良い

手術に際しては、どのような栄養をどのくらい投与するかも大事ですが、いつから、どのように投与するかも大事です。

グルタミン、水溶性ファイバー、オリゴ糖を手術の4時間前と手術後12時間置かないうちに飲むと腸管の動きや機能の回復が早く、翌日にはスープか重湯ぐらいは食べられるようになります。

グルタミンは腸のエネルギー源であり、水溶性ファイバーは小腸粘膜に刺激を与えるとともに、腸内で分解されて短鎖脂肪酸となり、これが大腸のエネルギー源となります。オリゴ糖は水溶性ファイバーの働きを助け、吸収を増強するとともに、悪玉菌を追い出したりします。

これらを少しずつ水に溶いて飲ませると、腸管粘膜の表面を被(おお)っている「絨毛(じゅうもう)上皮細胞」の増殖が促されて、腸管粘膜の委縮を防ぎ、腸管の機能を活性化できるのです。

胃を全摘した場合は、以前は1週間完全絶食でした。造影剤を用いて吻合(ふんごう)部を撮影し、綻(ほころ)びがないのを確認してから、少しずつ水分や食べ物を入れていったわけです。ですが、これでは手術は成功しても、身体が弱ってしまいます。

30年ほど前は、手術をしたら3日間ぐらいはリンゲル液(生理食塩水にカリウムやカルシウムなどを加えたもの)を点滴するだけで良いとされていました。しかし、それでは患者がものすごく弱ってしまいます。それで、できるだけ前倒しして栄養を入れることを勧めているのです。今では「早期経腸栄養」といって、手術後36時間以内に経腸栄養を開始するのが良いとされるようになりました。

「経腸栄養」という言葉が出てきましたが、実はこれが「どこから栄養を入れるか」の答えであり、術後できるだけ早く栄養を入れることの理由でもあります。身体に栄養を入れるルートは、大きく分けて2つあります。「経静脈栄養」と「経腸栄養」です。さらに、経静脈栄養には「末梢静脈栄養(Peripheral Parenteral Nutrition:PPN)と、「中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)があります。

末梢静脈栄養は、前腕にある末梢静脈に点滴するのが一般的で、1~2週間の短期的な栄養投与の際に使われます。中心静脈栄養は それよりも長期の場合に用いられる方法で、上腕、鎖骨下、頸部や そけい部(ももの付け根の内側にあたる部分)の比較的太い静脈からカテーテルを挿入して高カロリーの輸液の投与を可能にするものです。最近では超音波画像を見ながら安全に挿入できるようになり、最も安全性の高いものは上腕からのものとされています。

経腸栄養は「経口栄養」と「経管栄養」に分かれます。経口栄養は、文字どおり口から飲んだり食べたりすること。経管栄養は、鼻から胃や十二指腸まで管を入れる「経鼻法」と、胃や腸に瘻孔(ろうこう)を作る「経瘻孔法」に分かれます。高齢者に作ることの是非が問題になっている胃瘻(いろう)は、経腸栄養の経瘻孔法の一種です。また栄養療法を①経静脈栄養、②経腸栄養、③経口栄養の3種類に分類する場合もあります。

どのルートを使うかは患者の状態によりますが、大原則は「経口摂取こそ最高の栄養法であり、栄養管理の最終目的である」ということ。そして「腸が使えるなら腸を使え」ということです。なぜかというと、同じ種類の同じ量の栄養を入れたとしても、腸を使う場合と使わない場合とでは大きな違いがあり、経口摂取できるかどうかで、更に大きな違いがあるからです。

経腸栄養のメリットは、まず、中心静脈栄養で問題になるカテーテル敗血症の心配がない、ということです。中心静脈栄養ではどうしても、カテーテルから細菌が血管内に入ってしまう危険性があるのです。しかし、それ以上に重要なメリットは「小腸粘膜の萎縮を防げる」という点です。

経静脈栄養では、栄養を直接血管に入れますから腸を使いません。そのため腸の粘膜が委縮しますが、小腸の粘膜が委縮すると免疫機能が低下して、小腸の中にあった細菌や毒素が全身に回ってしまうのです。これを「バクテリアルトランスロケーション」と呼びます。

そもそも小腸は体内の器官ではありますが、外界に開かれた場所でもあります。口から胃や腸を通って肛門まで、消化管によって私たちの身体は外界と接しているのです。そのため消化管には外界から入って来た細菌などの異物を体内に入れないためのバリア機能、すなわち免疫機能が発達しています。たとえば、喉の両脇にある扁桃(へんとう)には免疫細胞がたくさん集まっていて、ウイルスや細菌などが鼻や口から入ってきたとき、気管や肺に入るのを防ぐ役目をしています。胃では、強酸性の胃酸によって異物を殺菌します。

消化管の中でも特に免疫機能が発達しているのが小腸で、小腸の粘膜には全身のリンパ球(免疫細胞の一種)の60~70%が集まっているとされています。また、小腸粘膜にあるパイエル板という免疫器官は、小腸に入ってきた細菌などの異物(抗原)を捉えてその特徴をリンパ球や白血球に伝え、その抗原から身体を守るべく免疫担当細胞(抗原を攻撃する抗体を生成する細胞)を作る働きをしています。抗体は、小腸内で働くだけでなく、血流に乗って全身に運ばれ、身体全体で働きます。

ところが、腸を使わないで長期の経静脈栄養を続けていると、小腸の粘膜が委縮します。小腸は、外側は二重構造の筋肉で、内側は粘膜になっています。粘膜には ひだ があり、その表面には絨毛と呼ばれる細い突起が密集しています。絨毛の表面を被う細胞が「絨毛上皮細胞」で、この絨毛上皮細胞は5~6日で入れ替わります。つまり、新陳代謝を繰り返しているわけです。ところが小腸を使わないと、絨毛上皮細胞の新陳代謝がうまくいかなくなって絨毛が委縮し、粘膜が薄くなってしまうのです。

小腸絨毛の構造

委縮してバリア機能を失った粘膜からは、血管やリンパ管を通して、細菌をはじめとする異物が体内に入り込んでいきます。もちろん、消化吸収機能も低下します。小腸が担っている免疫機能や消化吸収機能を低下させないためには、栄養は腸を使えるなら腸を使って入れること、そして出来るだけ早く開始することが非常に大切なのです。

また、同じ栄養を同じ量だけ身体に入れても、体重が一番増えるのは口から入れた場合です。特に、身体を作っているタンパク質の量が増えます。あるいは、タンパク質の減少が少ないともいえます。口で飲んだり食べたりした場合が、タンパク質の合成量が一番多いのです。次に多いのが経腸栄養で、一番少ないのが経静脈栄養です。

何故そうなるかというと、原因は身体に対するストレスです。口から飲んだり食べたりするのは自然のことですからストレスがありません。それに対して、胃瘻などの経腸栄養はストレスがありますし、点滴などの経静脈栄養はもっとストレスがあるのです。

私たちの身体は、ストレスを感じると炎症性サイトカインという物質が放出され、身体の中が炎症を起こした状態になります。すると、炎症によってダメージを受けた細胞を修復しようとしてエネルギー消費量が増え、エネルギー源としてタンパク質も使われていきます。そのため同じ栄養を同量投与しても、ストレスがあると体重が増えないのです。

口から食べることは更に、人に楽しみや喜びをもたらしてくれます。目で見、匂いを嗅ぎ、噛むことは、五感に刺激を与えてもくれます。口から食べるものは身体にとって糧(かて)となるだけでなく、心にとっても糧となります。カロリー摂取という目的を超えた大きな価値があるからこそ、経口摂取は最高の栄養法であり、栄養管理の最終目標なのです。

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