レクチンについて

糖鎖に結合するたんぱく質「レクチン」

レクチンは、ウイルスや細菌、植物、私たち人間を含む動物にまで広く存在しているタンパク質です。その特徴は、マンノース、ガラクトースなどの糖が結合してできた「糖鎖(とうさ)」に結合する性質があることです。

レクチンを一言で表すと、「糖鎖に結合するタンパク質」ですが、同様に糖鎖と反応する「抗体」や糖鎖に作用する「酵素」はレクチンに含まれません。

糖鎖は、私たちの体を構成している細胞の表面を様々なカタチで覆っており、
この糖鎖にレクチンが結合することで細胞と細胞の間の橋渡しや情報のやりとりなどが行われます。

レクチンはこうした働きを介して、生命の発生や免疫、感染症、がんの転移など多くの生命現象に関わっている重要なタンパク質なのです。

レクチンの数は膨大!約20のファミリーに分類

ほとんど全ての生物が1種類以上のレクチンを持っていることから、レクチンの種類は膨大な数にのぼり、新しいレクチンの候補タンパク質が見つかったとの報告が毎週のようになされています。

それぞれのレクチンは認識する糖鎖が異なり、さまざまな構造の糖鎖を認識するレクチンが存在しています。レクチンは構造や機能によって約20のファミリーに分類されていますが、新しいレクチンの発見に伴い、ファミリーの数は更に増えつつあります。

レクチンファミリーの代表的なものには、植物レクチンの中でも最も大きいファミリーを形成するマメ科レクチン、細菌から幅広く生物全般にみられる R型レクチン、動物に最も広く存在しているガレクチン、同じく動物に広く存在している C型レクチンなどがあります。

また、動物の細胞内の輸送に関わる L型レクチン、主に脊椎動物の白血球などの血球細胞で見られる I型レクチン、たんぱく質の折り畳みに関与するカルネキシン・カルレティキュリン、細胞内のリソソームと呼ばれる小器官で働く酵素の輸送にかかわる P型レクチンなどがあります。

植物におけるレクチン

これまで1,000以上の植物でレクチンが見つかっています。なかでも大豆やインゲン豆、ピーナツなどのマメ科の植物には多くのレクチンが含まれており、マメ科レクチンの役割が研究されてきました。

その一つは窒素固定菌との共生です。マメ科の植物は、空気中の窒素を窒素化合物に変換することができる根粒菌を根に宿すことで、窒素のない土壌でも育つことができます。この根粒菌の根への付着にマメ科レクチンが関与しているのです。

また、植物レクチンの中には、昆虫や草食動物に対して毒性を持つものや、菌の増殖を阻害するものもあることから、昆虫や草食動物に食べられるのを防ぐ、あるいは菌による感染を防ぐ生体防御の役割もあると考えられています。

人間におけるレクチン

私たち人間の体内にも、これまでのところ数百種類のレクチンが存在することがわかっています。その性質や役割が明らかにされているものもありますが、多くは今後の解明にゆだねられています。

糖鎖は第3の生命鎖

糖は、アルデヒド基(-CHO)またはケトン基(>C=O)を1つ持つ炭化水素と定義されます。身近な糖には例えばグルコース(ブドウ糖)があります。食事で摂取した炭水化物がグルコースに分解され、血液中に入ると、血糖となり、体を動かすエネルギー源となります。

これ以上分解できない最小単位の糖を単糖と呼びますが、その単糖が様々な形で結合して鎖のようになったものを「糖鎖(とうさ)」と呼んでいます。

糖鎖を構成する単糖には、グルコース、マンノース、ガラクトース、フコース、キシロース、NアセチルDグルコサミン、NアセチルDガラクトサミン、シアル酸など8種類以上が知られています。これらの単糖が様々な形で結合し、かつ1つの糖に複数の糖が結合することも可能なため、糖鎖のバリエーションは多彩をきわめます。

糖鎖は細胞の生存に不可欠であり、発生や免疫、ガン化などにおいて重要な役割を果たすことから、遺伝情報を記録するDNA(ヌクレオチドが結合したもの)、体を構成するタンパク質(アミノ酸が結合したもの)に続く、第3の生命鎖として注目されています。

糖鎖は生体内ではタンパク質や脂質と結合し、糖タンパク質や糖脂質として主に細胞表面に存在しています。また、糖鎖は細胞から分泌されるタンパク質に結合して、分解や熱から保護する役割もあります。

細胞膜の表面を覆う糖鎖は、生物種や個体(個人)、臓器、組織などによって異なり、糖鎖を介して細胞どうしが互いを認識することから、糖鎖はいわば細胞の顔(服装)のような役割をしています。

レクチンの発見史

レクチンの発見の歴史は、1888 年、ロシア(現エストニア)のヘルマン・スティルマークがヒマシ油の原料になるトウゴマ(ヒマ)の抽出物に赤血球を凝集させる作用があることを報告したのが始まりです。

その後、様々な植物の抽出物からレクチンが見つかりましたが、赤血球の凝集を指標に発見されたものが多かったことから、当初、レクチンは「血球凝集素(ヘマグルチニン)」あるいは「植物血球凝集素(フィトヘマグルチニン)」と呼ばれていました。

1919年、米国コーネル大学のジェイムズ・サムナーがタチナタマメの抽出物からレクチンを初めて精製し、コンカナバリンAと名付けました。そして1936年、このコンカナバリンAを用いた研究から、レクチンの赤血球を凝集させる作用が糖によって阻害されることを見いだし、赤血球凝集作用がレクチンと赤血球表面にある糖の反応であることが明らかになりました。

血液型は多くの分類法がありますが、私たちがふだん使用しているABO式血液型は、赤血球の表面にある糖鎖の違いによって A型、B型、O型、AB型に分類したものです。

1940年代後半、ボストン大学のウィリアム・ボイドらが相次いで特定の血液型に対してのみ赤血球凝集作用を発揮するレクチンを発見しました。そして1954年、特定の血液型に対して赤血球凝集作用を示す血球凝集素をラテン語のlegere(選び出す)にちなんでレクチンと名付けました。その後、レクチンの定義は拡大解釈され、今では抗体や酵素以外の糖に結合するタンパク質をすべてレクチンと呼んでいます。

免疫とレクチン

私たちの体を細菌やウイルスなどから守る免疫において、レクチンは重要な役割を果たしています。代表的なレクチンの働きを3つ紹介します。

1. 細菌など異物の捕捉に関わるレクチン

免疫を担う白血球の一種であるマクロファージは、体に侵入した細菌などを捕食することで病原体から体を守っています。このマクロファージの表面にはマクロファージマンノースレセプター(MMR)というレクチンが存在し、このレクチンが細菌などの表面にある糖鎖を認識して結合し、レクチン介在性食作用と呼ばれる、レクチンを仲立ちとした食作用によって、病原体を取り込んで殺します。

また、マクロファージは取り込んだ病原体を断片化して細胞表面に掲げることで(抗原提示)、免疫の中枢を担う T細胞に病原体の情報を伝え、T細胞の指令によってその病原体に対する抗体がつくられます。こうした抗原提示の過程にもMMRなどのレクチンが中心的な役割を果たしています。

2. 免疫を助ける補体系を活性化させるレクチン

免疫においては補体系が重要な働きをしています。補体系とは、マクロファージなどによる食作用を促進したり、体に侵入した細菌に穴を開けて殺す働きなどにより、免疫を助けるシステムのことです。

補体系には約30種類のタンパク質が関わっています。補体系は普段は不活性な状態にありますが、病原体に抗体が結合することで活性化することが知られています。

近年、抗体だけでなく、血液中を流れるマンノース結合レクチン(MBL)が病原体の表面の糖鎖に結合することでも活性化されることが明らかになりました。また、遺伝的にMBLを欠損している人は、感染症にかかりやすいことがわかっています。

3. 白血球の炎症部位への移動に関わるレクチン

免疫を担う白血球の多くは血液中を循環していますが、外傷や細菌などの感染で炎症が起こると、血管外の炎症部位へと移動します(遊走)。この炎症部位への移動にセレクチンと呼ばれるレクチンが関わっています。

炎症をきっかけに炎症部位近くの血管の内側にある内皮細胞にセレクチンが現れ、血液中を流れる白血球上の糖鎖と結合することで血管壁に白血球がつなぎとめられます。この結合を足場に白血球は血管内皮細胞とより強く結合し、血管外へと移動して炎症部位へと向かうのです。

精子頭部のレクチンが卵子の糖鎖を認識

精子と卵子が出合って受精に至るには両者の相互認識が鍵となりますが、その際も、レクチンが重要な役割を果たしています。

哺乳類の卵子は糖タンパク質を含む透明帯に包まれ、この透明帯は卵子を保護するとともに、卵子と精子の相互認識の場となっています。この領域は特にマウスで研究されており、マウスの透明帯はZP1、ZP2、ZP3の3種の糖タンパク質で構成されていることが明らかにされています。

精子頭部に局在するレクチンSp-56は透明帯タンパク質ZP3の糖鎖を認識して結合し、この結合を足場としてより強力に結合して、やがて受精に至ると考えられています。

例えば、人とマウスでは透明帯たんぱく質の糖鎖が異なるため、人の精子はマウスの透明帯とは結合しません。種特異的に行われる受精には、レクチンによる糖鎖の認識が関与しているのです。

インフルエンザウイルスのレクチンが糖鎖末端を識別して感染

レクチンは、私たちの体を守る免疫において重要な役割を担っていますが、半面、ウイルスや細菌による感染のメカニズムにもレクチンが関わっています。

毎年、冬に流行するインフルエンザは、インフルエンザウイルスが持つレクチン(ヘマグルチニン)が、宿主となる私たちの鼻腔や咽頭などの粘膜細胞表面にある糖鎖に結合することで感染します。

その後、ウイルスと細胞膜との融合が起こり、ウイルスのゲノムが細胞内へ送りこまれ、宿主細胞の複製機能を利用してウイルスが増殖します。鳥インフルエンザウイルスがまれにしか人に感染しない理由も、こうした糖鎖を介した感染のメカニズムで説明がつきます。

インフルエンザウイルスなど多くのウイルスはシアル酸(動物細胞表面の糖鎖末端にある単糖の一種)を介して細胞に結合します。インフルエンザウイルスは、シアル酸の種類(NeuAcとNeuGc)と、シアル酸と別の糖(ガラクトース)との結合様式(α2,3またはα2,6)の組み合わせを認識して結合します。

人のインフルエンザウイルスはNeuAcα2,6に結合しますが、鳥インフルエンザウイルスはNeu5Acα2,3に結合するため、鳥インフルエンザウイルスはほとんど人には感染しませんが、ブタはNeuAcα2,6、NeuAcα2,3のいずれのシアル酸も有するため、ブタに感染した鳥インフルエンザウイルスが変異して人に感染する可能性が危惧されています。

また、ウイルスだけでなく、O-157などの大腸菌、胃がんの原因とされているヘリコバクター・ピロリ菌などの細菌もレクチンを介して宿主細胞と接着することが感染の足がかりとなっています。

ガレクチン-3とセレクチンはガン転移に関与

細胞のガン化に伴い、細胞表面の糖鎖が変化することが明らかにされています。一方、レクチンの中でもガレクチンファミリーの一種であるガレクチン-3や、白血球の遊走に関わるセレクチンがガンの転移に関与するとの報告があります。

ガレクチンは細胞増殖や炎症、免疫など幅広い機能をもち、臓器や組織によってもその働きは異なります。ガレクチン-3は、細胞どうしの接着能を失った細胞に誘導されるアポトーシス(生理的な細胞死)を抑制し、細胞を守る働きをします。

マウスや人の転移性のガン細胞では細胞表面のガレクチン-3の量が増加しており、ガン細胞の悪性度や転移能とも相関することが明らかにされ、ガレクチン-3は、接着能を失ったガン細胞をアポトーシスから守ることで、血液中でもガン細胞を生存可能とし、ガンの転移しやすさに関係していると考えられています。

また、ガン細胞ではシアリルルイスx/a 糖鎖の量が顕著に増えることが明らかにされています。血管の内側の内皮細胞にあるセレクチンはこのシアリルルイスx/a 糖鎖と結合するため、ガン細胞が血液の流れに乗って転移する際、血管内皮細胞のセレクチンとガン細胞表面のシアリルルイスx/a 糖鎖の結合が最初のステップになると考えられています。

血液型判定に用いられてきたレクチン

今日広く使用されているABO式血液型は、赤血球上の糖鎖の違いによりA型、B型、O型、AB型の4つに分類したものです。

O型の赤血球表面の糖鎖構造が基本で、これにN-アセチルグルコサミン(GalNAc)という糖が結合するとA型、ガラクトース(Gal)が結合するとB型、A型とB型の両方の糖鎖をもつ場合をAB型としています。

そしてA型の人はB型の糖鎖に対する抗体を、B型の人はA型の糖鎖に対する抗体を、O型の人は両方の糖鎖に対する抗体を持っています。輸血の際、血液型を適合させることが重要な理由がここにあります。

レクチンは赤血球を凝集させる作用を指標に発見され、さらにレクチン研究の過程で血液型特異的に赤血球を凝集させるレクチンが見つかってきました。最初はウナギからO型の赤血球を特異的に凝集させるレクチンが発見され、その後、A型、B型特異的なレクチンが発見されました。

こうした経緯から、昔は血液型を判定するための試薬としてレクチンが用いられました。今では抗血清を用いて血液型判定が行われるケースがほとんどですが、同じA型でもA型の糖鎖が少ないなど血液型には亜型があり、そうした亜型の判定にレクチンが用いられることがあります。

肝線維化マーカーとして活用されるレクチン

細胞の表面を覆う無数の糖鎖は、細胞の分化や成熟などにより構造が変化し、未分化・未成熟の細胞と、分化し成熟した細胞の識別や認識を可能にしています。また、正常細胞がガン細胞になる際にも細胞表面の糖鎖構造が変化することが明らかにされています。そのため、糖鎖の変化の検出がガンの早期発見や診断につながることが期待されています。

現在、腫瘍マーカーとして臨床で使用されているCA19-9は、ガン患者の血清中で上昇するシアリルルイスaという糖鎖ですが、バラエティに富む糖鎖の微妙な違いを認識するレクチンはガン患者の血清中の糖鎖を見分けるマーカーになり得る可能性を秘めています。

2013年には世界で初めてレクチンによって肝臓の線維化の進行度を判定するマーカーが見つかりました。ウイルス性の慢性肝炎は放置すると、線維化が進み肝硬変を経て肝ガンを発症することもある感染症ですが、肝臓の線維化に伴い、Mac-2 結合たんぱく質(M2BP)の糖鎖構造が変化することがわかりました。

この変化した糖鎖構造を認識するレクチンを用いて肝臓の線維化を捉えたのが本マーカーです。肝線維化を早期に捉えることはガンの発症予防にも役立つことから注目されており、マーカーを用いた肝線維化検査技術が実用化されています。


雑学・豆知識 ブログランキングへ

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ページ上部へ戻る